林深音「泪庇 -青春東京を取り戻すネオ・アジールの構築-」
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現代に必要な建築空間としての「心の避難所」を提案します。
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現代の⽇本は、流れに⾝を任せるだけで⽣きていけてしまう⼀⾒安定した世の中です。
しかし、⼤震災やパンデミック、オリンピックといった未曾有の状況に⾒舞われたとき、⽇本の社会は思うよりもずっと脆く、危うい状況であることが浮き彫りになりました。
この事実は、本質に気付くことを恐れ、その場しのぎの「⾒かけの融和」を図っていたことが原因であると言えるでしょう。
また、これは社会に限ったことではなく、まちや個人に目を向けると、物理的に豊かな世の流れに身を任せ、自分自身の心と向き合う時間が減っているように思います。
このような現状を踏まえ、「裸形の概念と向き合う場」つまり⾃分の感情に正直に向き合うといった、原来の⼈間らしい⾏為を許容してくれる⽇常からの新しい意味での「逃げ場」が必要であると考えました。
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そこで、避難所と定義されることもある『アジール』に焦点を当てました。
古くから私たち人間の心に内在する『アジール』というものの実態を建築側から考究し、現代的なアジールの場へのヒントを模索しました。
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これらのリサーチを踏まえ、
アジールが迷える人のための避難所としてだけでなく、
また迷いから逃げる人のための気付きのとしての役割があることがわかりました。
また、建築的に空間を分析すると、アジールは“それ”として実態を持つのではなく、様々な出来事のつなぎ目や境界、にじみあいの中に
派生するものであることがわかりました。
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アジールを構築する場として、“東京”の縮図とも言える「新宿」を敷地として選定します。
多様な境界が入り乱れる区域であり、かつ、アクセスの良い場所であるため、様々なジャンルの人に利用してほしいという願いが叶う場です。
計画地は、約540mの遊歩道。
この細く長い敷地は、「健康的な新宿御苑」と「夜に輝く新宿の街」の境界に位置し、全く異なったように息をするふたつの領域が交じり合う場です。
しかし、現在は御苑を模倣した遊歩道があるだけで、人々に十分に使われていないのが現状です。
また、ここは、かつて江戸の宿場町として、市民たちの賑わいが溢れた 非日常的なアジールの場でありました。
この場所に、カタチは違えど、現代におけるアジールを再構築することに意味があると考えています。
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建築をつくる行為は『線』を用いて空間を定義していくものであるが、アジールは線で定義することが出来ません。
そこで『アジール= “ 境界” (つなぎ目)』の定義に沿い、『面』を使って空間同士の境界の現れ方を観察しました。
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はじめは、恣意的なドローイングを行い、生まれてきた自由な面同士のからまり合いを観察しました。その後、重ね合わせる長さを変化させ、最終的に敷地や人々の導線を考慮したドローイングへと変化しました。
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地盤から地上のエリアには、公衆トイレや区役所の派出所、宿場町の歴史ギャラリーなどを設け、ここに訪れるトリガーとなるプログラムを配置します。
地下のエリアには、高低差のあるスロープと、もともと流れていた玉川上水の一部を水路化したものを配し、地上からの光や雨がところどころに落ちてくる空間が広がっています。
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例えば、「月の下のステージ」は
晴れの日には、小さな吹き抜けを下から見上げ、月のスポットライトをあび、月の光の強さに気付かされるかもしれません。
雨の日には、その小さな吹き抜けが雨のためのステージとなりしゃがんでミナモの広がりをみたりして、空間との対話が行われます。
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地上の施設を利用するために訪れた人がプログラムのない領域にふらっと迷い込み、ただ道を抜けていくだけでもいいし、
立ち止まって空間と対話をしてもいい、空間自体が人を包み人と対話する、そんな空間を目指しました。
アジールは、作り手側が定義できるものではありませんが、
他の媒体との違いである
建築の「いつもそこにあり続ける」という最大の魅力を生かし、
人々にとって心の拠り所となるアジールを目指しています。
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講評:新たな都市開発が加速しつつある東京、虚ろさを増すばかりの都市空間にいかに人間的な場を回復させていくか。「泪庇」と書いて“あまやどり”と読ませるこの作品の問題意識の根底には、作者が感じた現代の東京に対する苛立ち、その不条理を告発したいという心情が潜んでいる。現在は新宿御苑の散策路となっている細長い通路空間を敷地と定め、賑わう新宿の街と新宿御苑をゆるやかに接続する中間的な領域の創出が目指された。絵の具(水彩)の“滲み”が空間の濃淡、スケールを決めていくというデザイン手法が魅力的だ。「アジール」の語が副題に用いられているが、宿場町や赤線地帯としての新宿の街の歴史も織り込みながら重層的な物語を描き、“無縁”の場としての都市空間、その建築的表現に挑んだ点を高く評価したい。(田所)